遺族厚生年金の「5年有期化ルール」が再び注目を集めています。現行制度では、子どもがいない30歳未満の配偶者(妻または夫)は、遺族厚生年金が原則「最大5年間の有期給付」となっています。しかし、2024年7月の年金部会資料によると、法案では2028年4月からその期間中の年金額が「有期給付加算」により約1.3倍に増額され、さらに「収入要件が撤廃」される予定です。また、子なし配偶者で従来は年齢制限で対象外だった男性にも適用が拡大され、所得や障害状態に応じて5年後も給付を継続する「継続給付制度」が導入されます。これは男女格差是正や少子高齢化に伴う制度再設計の一環であり、遺族の生活設計を大きく変える重要な改正です。本記事では、5年有期化の背景、改正ポイント、そして2028年以降に備えて今からできる対策と注意点をわかりやすく整理していきます。
1. 遺族厚生年金の見直し背景と目的
現在、少子高齢化や就労環境の変化により、日本の年金制度全体が抜本的な見直しに直面しています。特に遺族厚生年金に関しては、給付対象の「男女差」や「年齢による取り扱いの違い」が長年にわたり指摘されてきました。
例えば、現行制度では、30歳未満で夫を亡くした妻には5年間の有期給付が支給されますが、30歳以上の妻には無期(終身)で支給されます。一方、妻が亡くなった場合の男性配偶者には、原則として60歳以上でないと遺族厚生年金そのものが支給されず、制度上の格差が存在していました。
このような背景のもと、2024年に社会保障審議会年金部会で提示されたのが、「男女差解消」と「働く世代の支援強化」を主軸とした見直し案です。
特に注目されたのは以下の3点です:
- 男女で異なる受給要件(年齢・性別)を統一し、60歳未満で死亡した配偶者に対しては男女問わず原則5年間の有期給付とする
- 5年経過後も配慮が必要な場合は継続給付を導入
- 年間850万円未満の収入要件を撤廃し、所得に関係なく支給対象とする
これにより、女性だけでなく男性も「30歳未満かどうか」ではなく「配偶者の死亡時年齢」で判断されることになり、遺族の生活保障の観点からも公平性が強化される改正といえます。
2. 現行制度のしくみと問題点
現行の遺族厚生年金制度では、支給の有無や給付期間が「配偶者の年齢」「性別」「子どもの有無」によって細かく分かれています。
具体的には:
- 【女性配偶者(妻)の場合】
- 30歳未満で死亡:5年間の有期給付
- 30歳以上で死亡:無期給付(終身)
- 【男性配偶者(夫)の場合】
- 55歳未満で死亡:給付なし
- 55歳以上で死亡:60歳から無期給付
この構造は、旧来の「男性が稼ぎ手、女性が扶養される側」という前提に基づいて設計されたものであり、現代の就労状況とはかけ離れた実態になっています。
また、子どもがいない場合に有期給付が適用されるという条件も、子育て中の家庭には適用されず、逆に子なし世帯では生活の再設計が極めて困難になるケースがあります。
この制度構造がもたらす主な問題点は以下の通りです:
- 男女で受給の可否が異なるという制度的不公平
- 有期給付終了後の生活設計が困難(特に若年未亡人)
- 支給対象となる年齢が性別によって分かれており、時代に即していない
こうした点を踏まえ、制度の抜本的見直しが不可避とされてきたのです。
3. 改正後の新制度:誰が・どう変わる?
2028年4月以降に施行される新制度では、男女や年齢による格差が大きく緩和され、以下のポイントで支給内容が見直されます。
● 有期給付の一律適用と加算制度
配偶者(妻・夫問わず)が60歳未満で死亡した場合、原則5年間の有期給付が支給されるようになります。また、この有期給付には「有期給付加算」が上乗せされ、支給額は現行の約1.3倍に増額される見込みです。
● 継続給付の導入
5年間の有期給付期間終了後も、以下のような事情がある場合は「継続給付」が認められます。
- 配偶者が障害状態にある場合(障害年金受給者等)
- 単身で年額122万円(=月額10万円)以下の所得しかない場合
この場合、収入と年金の合計額が基準を超えるまでは継続的に給付が行われます。
● 収入要件の撤廃
従来は「年収850万円未満」でなければ支給対象外とされていた制限が撤廃されます。これにより、広い層に公平な形で制度が適用されることになります。
4. 影響を受ける人・受けない人の違い
改正の影響を受けるのは、「2028年4月以降に配偶者が死亡し、かつその時点で条件に該当する人たち」です。
● 見直しの影響を受けない人
- 既に遺族厚生年金を受給している方
- 2028年度時点で60歳以上の方
- 子が18歳年度末までにいる家庭(現行制度と同様に無期給付)
● 見直しの影響を受ける人
- 18歳未満の子どもがいない配偶者
- 2028年時点で40歳未満の女性
- 子どもがいない30代女性:約250人/年
- 子どもがいない20〜50代男性:約1万6000人/年(推計)
5. 中高齢寡婦加算の見直しも併行実施
今回の制度改正では、「中高齢寡婦加算」についても同時に見直しが行われます。
- 現行制度:40歳以上65歳未満で18歳未満の子がいない妻に支給(年額623,800円)
- 見直し後:段階的に縮小し、2048年度には廃止予定(25年かけて減額)
さらに、有期給付加算と併用する形で支給額全体をカバーし、障害・収入不足の条件があれば65歳まで支給される流れになります。
出典:遺族厚生年金が改正される? 2025年の見直し内容や廃止予定の制度について解説 | 経営者から担当者にまで役立つバックオフィス基礎知識 | クラウド会計ソフト freee
6. 今後のスケジュールと注意点
以下のようなスケジュールで段階的に見直しが実施されていきます。
- 2028年度(N年度):男性にも5年有期給付適用、有期給付加算スタート
- 2033年度(N+5):女性の有期給付年齢引き上げ開始
- 2048年度(N+20):年齢差の男女統一化
- 2053年度(N+25):中高齢寡婦加算の完全終了
今からできる対策としては:
- ご自身や配偶者の生年月日・年齢を確認
- 夫婦いずれかが60歳未満で他界した場合のケーススタディをしておく
- 自治体や社労士による事前相談も有効
7. まとめ:2025年6月現在で影響を受ける世代とは?
2025年6月時点で37歳以上の女性、および52歳以上の男性は、今回の遺族厚生年金改正の影響を受けることはありません。
一方で、現時点で37歳未満の女性、52歳未満の男性は、将来的に有期給付制度の適用対象となる可能性があり、制度改正の影響を強く受ける世代です。
今後の生活設計や年金制度への理解を深めるためにも、今回の改正内容はしっかり押さえておくべきでしょう。
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